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O plus E誌 2006年7月号掲載
 
 
カーズ』
(ウォルト・ディズニー映画/
ブエナビスタ配給)
      (C)DISNEY/Pixar  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月1日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2006年6月2日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  もはや,映像表現は自由自在の感すらある余裕作  
 

 改めて復習しておくと,ピクサー (Pixar)は3D-CGアニメの歴史を作ってきたスタジオだが,もとはILMのCG部門からスピンアウトしたエドウィン・カットマル氏,ジョン・ラセター氏たちが1986年に起こした会社で,当初は画像処理マシンやレンダリング・ソフトのメーカーであった。技術プロモーション用に製作した短編『Luxo Jr.』(86)はアカデミー賞短編アニメ部門にノミネートされ2年後には『Tin Toy』(88)で同部門のオスカーを獲得する。
 一時経営不振になった折,アップル・コンピュータの創始者スティーブン・ジョブズ氏の出資を仰ぎ,爾来同氏がオーナー(会長兼CEO)となる。1990年頃からはディズニーと業務提携し,2Dセルアニメ製作のコンピュータ化に貢献して『美女と野獣』(91)『ライオン・キング』(93)等の製作に技術面から貢献した。そうした縁から,世界初のフルCG長編アニメ『トイ・ストーリー』(95)はディズニー・ブランドで配給されるが,全編完全にピクサーが製作した作品であった。続いて『バグズ・ライフ』(98)『トイ・ストーリー2』(99)を生み出すが,ここまでずっと芸術面のリーダーであり,製作・監督・脚本を務めてきたのはジョン・ラセター氏である。その後『モンスターズ・インク』(01)『ファインディング・ニモ』(03)『Mr.インクレディブル』(04)では若手に監督を任せ製作総指揮に退いていた。
 やがてビッグネームとなったピクサーと名義貸しだけのディズニーには隙間風が吹き,契約上最終の本作品で両社の提携は終了すると見られていた。危機を感じたディズニーが独力で『チキン・リトル』(05年12月号)製作したことは,同作品の紹介時に述べた通りである。急転直下,関係修復交渉は実を結び,何とピクサー社はディズニーに売却されて,今後もディズニー・ブランドで公開されることとなった。皮肉なことに,『チキン・リトル』の製作責任者はディズニーを退社している。
 さて,6年ぶりに監督復帰した御大ラセター氏の手なる本作品は,面白くない訳がない。ずっと暖めていたテーマとだというから,完成度が低いはずがない。今回は,オモチャでも昆虫でもモンスターでも熱帯魚でもなく,アメリカ社会を象徴するクルマたちが登場する。擬人化されて描かれているのは勿論だが,今回の登場人物に人間はいない。カーレースの観客席を埋め尽くしているのもすべてクルマなのである。
 主人公のマックィーンは若き天才レーサーで,新人でチャンピオンを狙う凄腕ルーキーだ。日々振り向くこともなく人生を生きてきた彼が,ふとしたミスから,古きルート66沿いの田舎町ラジエーター・スプリングスに紛れ込む。そこに住む心優しき住人たちに傷ついたハートを癒されるという設定だ。郷愁を誘う様々な風景や,遊び心,パロディーも満載の展開は,ピクサーの面目躍如たる出来映えだ。以下,その見どころである。

 ■ 技術的にあっと驚くのは,クルマの光沢感と映り込みの素晴らしさだ。観客席を埋め尽くすクルマ1台1台の描き込みの丁寧さにも脱帽する。いずれも絶対に3D-CGでなければ描けない代物だ(写真1)。嬉しくなるほどのピカピカのメタリック感は,リフレクション・マッピングされる周囲の情景も丁寧に作り込んでなければ達成できない。それでいて,少しつや消しのボディ,オンボロカーの錆の具合など,まさに自由自在だ。
 ■ 主舞台となるラジエーター・スプリングスの町の描写は丁寧で魂が籠っている(写真2)。レンダリング以前に,相当デザインに人と時間をかけたことだろう。崖から見下ろすルート66沿いの光景,夜のネオン輝く町の描写なども素晴らしいの一言だ。
 ■ 何気ない郊外やインターステート沿いの光景にも見事な構図や描き込みがある(写真3)。前作までとは,圧倒的に要素オブジェクト数,ポリゴン数が増加している。土煙,道路脇の小石やサボテンの描写もリアルだ。レース場や一般道でのクルマの動きやスピード感も,丁寧にモーション・ブラーを与えて調整されている。

 
     
 
写真1 ピカピカのボディの光沢感,映り込みは秀逸。
観客席を埋め尽くす1台1台のクルマの描写も丁寧だ。
 
     
 
写真2 ルート66沿いのラジエーター・スプリングスの町
 
     
 
 
 
写真3 何気ない風景シーンの描写も細部はきめ細やかで,構図の見事さにも感心する
(C)DISNEY/Pixar
 
     
 

 ■ 各クルマはかつての名車をベースに,目はフロントウィンドウ,口はフロントグリルに描かれているが,その動きで男女の別も,老若の別も描き分けている。前輪2つで手の動きのように見せる表現力もすごい。
 ■ 主人公の名は数々のレーサー役を演じたスティーブ・マックイーンへの,町医者のドック・ハドソンは名優ロック・ハドソンへのオマージュだろう。後者の声をポール・ニューマンが演じている。現役F1レーサーのミハエル・シューマッハー,インディ・レーサーの英雄マリオ・アンドレッティらが,カメオ出演するのも話題だ。エンドロールには,かつてのピクサー作品をかざった主人公達がクルマに扮して勢揃いし,ウッディ役のトム・ハンクスの声も出て来る。余裕というか,この遊び心には恐れ入る。

 
          
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